一週間ほど前のことだっただろうか。 帰宅時、小雨が降っていた。しかし、自宅まではわずかに徒歩10分。雨が強くならないうちに帰り着くだろうと思い、傘を持たずに職場を後にした。

 しかし、道半ばで少々雨が強くなってきた。上着も濡れ始めてきたので、速歩で歩き始めた。

 すると、私の5、6m前を歩いていた、50歳前後と覚しき女性が振り返ってこう言って下さった。「家はすぐそこなので、よかったら傘をお貸ししましょうか?」と。

 折角のお申し出だったが、もう自宅まで4,5分の所まで来ていたので、感謝の言葉とともにお申し出を辞した。だが、その時には体を濡らす雨とは裏腹に、心の芯をじんわりと暖かくしてくれた。だって、見ず知らずの人間に傘を貸したら、戻ってこない可能性も高いのだから。

 こんな言葉が自然に出てくる方に、感謝と尊敬の念を抱いた。私も雨の時には時々でもこのことを思い出せたら、少しはこの方の心に近づけるだろうか。