妻の掃き掃除
妻起きる
前に髪の毛
掃いてみる
以前なら、妻が一向に掃除をしないから、仕方なく私が掃き掃除をしていた。しかし、今日は違う。抜け落ちた妻の髪の毛が、彼女の目に入らなければよいのに、と思って掃いていた。しかし…
掃除せぬ
妻が箒を
手にしてる
妻の辞書に、掃除という文字は無いに違いない。そう思ってきた。いや、今もそう思ってはいる。私が何度言っても、床に落ちた塵や髪の毛を掃いて掃除することは無かった。
そんな妻が、抜け落ちた自分の髪をせっせと掃いている。
過日、妻が乳がんを患っていることが分かり、早速、治療を開始した。
最初の化学療法(抗がん剤の点滴)から、まだわずかに2週間。早くも副作用による脱毛が始まってしまった。
ちょっと手で触った拍子にごそっと抜けてしまうようになっている。床にかなりの量が落ちてしまっている。枕にも大量に残っている。
副作用による脱毛について、もちろん医師からは説明を受けてはいたが、実際に抜け始めた彼女のショックは相当のものだろう。今のところは「うわぁ、見て、見て、またごっそり抜けたぁ!」などと明るい声で言ってはいるが、次第に落胆の声に変わっていってしまうのに違いない。
普段なら、妻が自ら進んで箒を手にしたのであれば、大歓迎するところだ。だが、このような形で、彼女が自発的に掃除をするようになることを望んではいなかった。以前は、箒を手にしない妻に苛立ちを抑えられずにいたのに、今は自ら箒を手にする妻が、不憫でならない。
だが、病人にとっては不憫に思われるよりも、同情や共感の方が心の支えになると、自分の経験から感じている。妻の辛さは私の辛さ。ともに、この厄介な病気に立ち向かっていこう。