5000円の使い方

 髪が薄く、実年齢よりもずっと老けてみられるのは、やはり、あまり気持ちのよいものではない。私の場合、20代前半から既に後退が始まり、あれよあれよと言う間にすっかりめっきり見事に減ってしまった。これを書いている現在ではもうすぐ41歳を迎えようという所だが、外見からは50代ぐらいに見られているようだ。最近は、自分が写っている写真を見る度に、いつも、がっかりしてしまう。鏡で見た自分と見比べても、さらに老けて見える。本当に、うんざりである。

 当然、育毛剤も何度か試してみた。もちろん、最近になって医学的にも一定の効果が認められるとして処方されるようになった、ミノキシジル配合のものも購入・使用してみた。
 だが、薬局にあったリーフレットを見る限り、どうやら無くなってしまったところに生えてくるわけではなく、今現在ある髪が無くなるのを予防し、現状維持する程度らしい。つまり、今の外見から若返ることは期待できない。

 そして、値段もバカにならない。病院で処方してもらうにせよ、薬局で売薬を買うにせよ(薬としての効き目はほとんど同じらしい)、一月に5000円程度を要する。
 5000円あれば、本やCDなどが買える。映画や演奏会、演劇にも足を運べる(2、3か月分が必要な場合もあるだろうが)。既にすっかり薄くなってしまったこの髪に毎月5000円を支払うのと、同じ金額分、教養や文化的な体験のために支払うのとでは、どちらが有益だろうか。

 もちろん、人それぞれ、価値観が異なるから優先順位も異なろう。だが、今からフサフサの髪の毛が戻ってくるのでなければ、私は頭の外の髪の毛よりも、頭の中身を育てることにしよう。育毛剤で効果を得ている人からしてみれば負け惜しみにしか聞こえないかもしれない。だが、どうせ遺伝的に見ても遅かれ早かれ私の髪は減っていくし、ストレスに弱い性格も災いして、それが少々加速してしまったと考えるしかなかろう。

 負け惜しみは、さらに続く。
 「髪が多くても、笑顔が少ない顔」と、「髪は少ないが、笑顔の多い顔」、どちらがよいだろうか。多くの人に尋ねても、きっと同じ答えが帰ってくるように思う。
 髪は、いくら努力しても、多くを取り戻せるわけではない。しかし、笑顔は自分の考え方、振る舞い方次第でいくらでも増やすことが出きるだろう。それならば、先日知人が教えてくれた、「自分に『魔法』をかける方法」を使って、笑顔を増やすことにしよう。その方が、まわりの人たちにとって、そして私自身にとって、はるかに良いだろう。うん、そうしよう。