ワンランク、アップ???

 この日記も、特に鬱状態の私に読んで欲しい。

 今日、病院で先生と話していたら、ちょっと驚くことがあった。私は自分の双曲性気分障害躁うつ病)はⅡ型に違いないと思っていたが、実は先生は、Ⅰ型と考えているということ。Ⅱ型は躁うつの振幅がごく軽いが、Ⅰ型では非常に大きく、トラブルメーカーとなることが少なくない。

私:「え?だって、精神科の先生が書いた本やホームページなどを見ると、Ⅰ型の患者さんって、色々とトラブルを起こしてしまい、時には警察沙汰になることもあるとか。金遣いが非常に荒くなったり、複数の異性と関係を持ってしまったり、強制的に入院させられることもある、などと。私はそんなに激しいことは起こしていないですよね?確かに、先物取引の勧誘員に言いくるめられて200万円だかの大損したり、浮気ギリギリぐらいのことがあったり。林道で車を何度かぶつけて壊したり、何のためらいもなく堂々と赤信号を無視したことはありましたけど。でも、躁状態といっても私としては、ちょっと機嫌が良いというか、テンションが高いといった具合に過ぎないと思いますが…」
先生:「いや、今までの病状や出来事に関する報告を聞いていると、車を壊したり、平気で信号無視したりというのは、Ⅱ型の範囲では無いんだよ。Ⅰ型の疑いが強い」

 しかし、落ち着いてよくよく考えてみれば、

  • 先物取引で大損。冷静な私ならば「そんなにおいしい話ならば、私なら人には教えませんけどねぇ。どうぞ儲けを独り占めして下さいな」と、電話をさっさと切るはず。それなのに、「こんなにいい話を教えてくれるなんて、何て親切な人たちなんだろう。悪い人には見えないし」と、疑いもしなかった。10日位ですぐに倍になるといわれて、いきなり100万円を投資。しかし、値上がりしたといえば追加投資が必要、値下がりしたといえばやはり追加が必要、やめれば今までに投資したお金がすべて無駄になると言われ、言われるがままに貯金を次々と解約して送金。どう見ても、正気の沙汰とは思えない。それまで妻には内緒にしていたが、どうにもならなくなって「頼む、金を貸してくれ」と電話。すかさず妻が「何てことやってるの!?業者の言うことなんか放って置いて、今すぐ○○センターに電話しなさいっ!」。弁護士さんに間に入ってもらって300万のうち半分程度を取り戻してもらった。
  • 株に投資。採用者研修の時の「社会人になったら株を買って経済を勉強しなさい」と言った講師の言葉を思い出し、「株で儲けよう」みたいな本を買ってミニ株を購入。こちらはパチンコを趣味とする人たちと同程度の損失で済んだが。
  • スーパーの禁煙休憩所でタバコを吸っていた、見知らぬ人と大声で口喧嘩。普段なら、見知らぬ人とはもちろん、身内相手でも、ちょっとした口喧嘩さえしないのに。妻がブレーキをかけてくれなかったら、相手の胸ぐらを掴みかねない勢いだった。
  • 浮気。日帰り出張を装ってネット上で知り合った女性と、一日デート。その後、泊まりがけの出張に絡めてその女性の家に泊まりに行こうと企てたが、私の怪しい行動を妻が察知して発覚し、泊まりに行く計画は未遂で済んだ。しかし、これをきっかけに離婚。
  • 自動車の運転。3,4日の出張中に林道で路肩から落ちたり、エンジンの回転を後輪に伝えるドライブシャフトを壊したりして宿泊日数を延長。運転技術が未熟だったために起こしたこと、とずっと考えていたが、言われてみると普段なら自分の運転技術の未熟さを理解しているために慎重に運転するところを、「このくらい、大丈夫さ」と運転した結果と考えた方がつじつまが合うか。事故過信。躁状態の典型的な症状。そして、この件では職場の方に相当の迷惑をかけてしまった。
  • 赤信号や、踏切での降りかけの遮断機の無視。赤信号は、交差点で他の車の動きを「冷静に」観察しながら堂々と通過し、通過し終わる頃に「あれ、赤だったかな?」。普段なら緊急車両のサイレンが聞こえると、カーステの音量を絞り、窓を開けて確認し踏切でも必ず一旦停止するのに、この日は「ん?警報機、鳴っているかな?まあ、大丈夫だな」と一旦停止などするはずもなく堂々と通過。それも、2回も。事故を起こしていたら、まさしく「警察沙汰」だ。事故、それも死亡事故などを起こさなかったのが、本当に不幸中の幸いだった。
  • 衝動買い。これは幸い、躁状態でない時に必要な物を買い物リストにメモしておき、それを見ながら買い物するようにしているので、100円ショップやユニクロでの大人買いで、何とか収まってはいる。

 これらの行動を鑑みると、やはり「普通の人の上機嫌」のレベルでは無さそうだ。
 もし独身生活だったら、妻がブレーキをかけてくれなかったら、もっと大変なことになっていたのは間違いない。

私:「でも、初めて受診した時、私の話しを聞いて先生も『うーん、躁うつなんかなぁ』って、迷っておられたじゃないですか」
先生:「いや、あれから10年の間に、私もずいぶん躁うつ病について勉強してきたし、患者さんも診てきているからね。今の私があの時のあなたを診たら、間違いなく、即座に躁うつ病だと診断しますよ。それから、Ⅱ型の人の躁状態というのは、いつもよりほんの少しだけ陽気かな、という程度で傍目には非常に分かりにくい。だから、見過ごしてしまうことが非常に多い。その点、あなたの場合は傍目にもはっきりと分かる躁状態ですから、やはりⅠ型の可能性が高いんですよ」

 鬱状態の私が「あなたは双曲性気分障害Ⅱ型ではなく、Ⅰ型です」と宣告されたら、きっとかなり落ち込むだろう。「自分の病気は思っていたよりもひどい方だったんだ…。治らないわけだよ…」って。

 だから、これを聞いても平気でいられる躁状態のうちに、この宣告をどう解釈したかを記しておこうと思う。

 まず、躁鬱の波が激しいⅠ型なのに、この程度の振幅で治まっているのは何故だろう?

 まず忘れてはならないのは、周囲の人たちの理解と支援、応援。妻、両親、弟妹、職場の方々、友人、知人。皆さんが見守ってくれていなければ、病状は悪化こそすれ、改善には向かわなかったであろう。

 それから、自分の努力。病気を治そうという強い気持ちを持ち、治すための努力を続けてきた。きちんと病院に通って必要な薬を服用している。心理カウンセリングで「認知のゆがみ」を正すこと、マイナス思考ではなくプラス思考ができるようになるための訓練も続けている。躁状態の時でも派手なトラブルの度合いが、よくⅠ型の症例として紹介されている事例よりも小さくて済んだのは、自分の「理性」というブレーキが利いているからかも知れない。(単に、根っからの小心者だからなのかも知れないが(笑))

 一時期は、1週間もの間布団から起き上がれず、夜も昼もなく、ひたすら眠り続けた。食事もろくに摂れず、トイレに行くことさえ辛かった。風呂やシャワーなど、考えることさえ出来ない。病院に行く時にだけ、仕方なくシャワーを浴びていた。

 過睡眠はまだ続いているが、これも最悪だった頃に比べれば、かなり良くなった。鬱の時に集中力、理解力が著しく低下するのは未だに続いているが。

 途中でてんかんも発症した。40人に満たない職員の名前が思い出せない。同じ部屋で毎日顔を合わせている上司の名前すらも。階段が怖くて下りられない、印鑑が押せない、自転車のスタンドのバネのかけ外しが出来ない。運転時、車両感覚がまるでない。いつもは何も考えずに曲がっている交差点で、ドアを電柱に思い切りこすりつけ、慌てて家に戻った(ドア毎交換に)。自転車に乗るのが怖い、等々。数え上げればきりがない。てんかんに詳しい先生のところで脳波を診断してもらったところ、「徐波が出ていて、研究職なんか出来る脳波じゃない」とだめ押しされる始末。

 だが、このてんかんも、躁うつ病の治療にてんかんの薬を使うこともあり、発作はすっかり治まっている。

 先日、前述の先生とは別の、やはり、てんかんに詳しい先生に脳波を測定してもらったら、きれいなα波とβ波がでており、徐波はない、と。この言葉は、かなりの自信回復につながった。

 未だに躁鬱の波は続き、処方が変わると新たな副作用に苦しめられたりと、平坦な道ではない。だが、確実に、以前の状態に比べれば遥かに症状が軽くなっている。

 診断がⅡ型からⅠ型に変わっても平気でいられる躁状態のうちに、もう一度、鬱状態の私のためにも書いておこう。

 Ⅰ型でもⅡ型でも、恐らく躁と鬱の振幅の大きさが違うだけで、病気としては同じだろうし、治療方法は同じ。その治療を続けてきて、今、ここまで良くなってきたのだから、もっと良くなるだろう。Ⅰ型だろうがⅡ型だろうが、目指すところは薬を飲みながら病気と仲良く付き合える「寛解」と言う状態。そして、「寛解」に達した患者さんたちは大勢いる。

 病気の診断がⅡ型からⅠ型になったところで、何も変わりはしない。今まで通り、周りの人たちの支えに感謝しつつ、この病気は必ず「寛解」することを信じて治療を続けること。やれることはこれしかないし、やるべきことも、多分、これしかない。