Je te veux

 大学生の時に入っていた「ピアノ部」では、毎年、夏と冬にコンサートを開いていた。小さな市民ホールを借りて。

 3年生になり、研究室のゼミやらバイトやらで何かと忙しくなり、練習時間がめっきり減っていた。冬のコンサートが近づいてきたが、曲選びに困ってしまった。「なるべく簡単で、聞き映えのする曲はないだろうか」と。そんな時、自分にも弾けそうな、この曲が思い浮かんだ。Eric Satie"Je te veux"

 でも、この時の私にとっては、曲の好みや難易度、聞き映えよりも、その題名が重要だった。非常にタイムリーな曲だった。(笑)

 思えば、後にも先にも、あれほど気持ちを込めて丁寧にピアノを弾いたことは無いな。具体的に "te" に向けて弾いたのだから。

 そして今、その時の "te" と一緒に暮らしている。

 もう、かなり長い間ピアノとはご無沙汰だが、リハビリして練習し直したら、また気持ちを込めて丁寧に弾けるかな。

 あ、待てよ。 "te"はその時のこと、覚えているだろうか…。